​卒業設計

​垢とたわむれる気積

柳澤研究室 長橋 佳穂

空気を読みながら過ごす日々の窮屈さ、実体のない情報への戸惑い、他者に傷つけられる怖さを孕む今日の空気といったん距離をとり、自分自身が「垢」を受け入れる瞬間を作りたい。

誰も気に留めない表層的な建物が並ぶまちなみの空隙に、生きるための機能をこびりつけていく。誰にも束縛されない居場所と、どこまでも自由に広げられる自分の気積を今までの日常に新しく重ねる。飾らず、綺麗でもない、人の内側のありのままな「垢」が表出することに、怖さや不安の先にある、「自分らしく」あっていい歓びを感じていたい。

​総評 柳澤 潤

長橋さんのこの作品のタイトルにある“垢” は字義通りのものでなく、人間や動物に纏いつく“匂い” のようなものかもしれない。この作品では受容する側の嗅覚、触覚、聴覚など動物である限り保持してしまう性質つまり状態が宙ぶらりんになったまま不思議な全体性をもって都市に放りなげられる。都市での暮らし、という意味では東孝光氏の「塔の家」とは似ているようで実はかなり異なる。それはおそらく彼女にしかない“感覚” で建築を作る距離感なのだと思う。三枚の壁が垂直方向に伸びてゆく様に、解放された床と壁の構成による“部屋でない場所” に、まるで地上での苦しみを空や街に救ってもらうような、叫びにも似た長橋さんの慟哭が聞こえてくるような佳作である。